off the menu 来日公演直前インタヴュー
「すべてを僕らの音楽から見つけてもらえたらいいな」
多角的な感情に溶け込む音楽
2019年にデビューし、ソウルを中心に活動する、アン・ジョンジュン(Vo. & Syn.)、イ・ヒョンソプ(Ba.)、イ・スンミン(Syn.)の3人組、off the menu。オルタナティヴ・バンドと呼ぶこともできる彼らだが、バンドという言葉に染み付いた偏見を嫌い、自分たちをチームと呼んで、エレクトロポップ、ポップ・ロック、R&Bなど様々なジャンルを探求している。そんなoff the menuが《off the menu Tour 2024》と題し、ソウル、東京、台北、シドニーの4箇所でミニツアーを行う。約2年ぶりとなる来日公演は東京を拠点に活動する5人組R&Bバンド、HAL-LEYと共に《Spotify O-nest》で10月2日に開催される(10月3日には入場フリーの“NAMEYOURPRICE”方式で《off the menu tour 2024 in Tokyo – AFTERPARTY》も開催を予定。詳細は記事末尾へ)。
多方面に広がる関心と親しみやすさへのこだわりを併せ持った3人との楽しい会話を読んで、《SXSW Sydney》への出演も決定したoff the menuの今をぜひ目撃してほしい。
(インタヴュー・文・翻訳/万能初歩)
Interview with off the menu
──まず日本のリスナーの方々に簡単な自己紹介をお願いします。
アン・ジョンジュン(以下、JJ):僕らはoff the menuというチームで、メニューにない音楽をやるという意味です。レストランでシェフにおまかせを頼むように、その都度に僕らがやりたい音楽をやるという意味を込めています。ジャンルを問わず色々やっているチームなんです。
──「ジャンルを問わず」とおっしゃいましたが、実際どんな音楽を?
JJ:本当に多くて、ポップから電子音楽、フォーク、ハウス……。ディスコ系も多いですし、ファンクもあって、ブリットポップにもなれるし、アンビエントも入るし……。
イ・ヒョンソプ(以下、HS):ロックもあるよね。
──off the menuを何をきっかけに結成したんですか?
JJ:すごく単純で、僕ら3人がみんな大学の同期(白石芸術大学・実用音楽科)なんです。僕が芸大に入った理由は元々バンドをやりたかったからで、メンバーを探す中で志と相性が合って、聴く音楽の幅が広いのがこの2人だったんじゃないかと思います。
HS:そんな風に思ってくれるなんて嬉しいですね(笑)。
──2人(ヒョンソプ、スンミン)はoff the menuで実際活動してみていかがですか?
HS:僕は最初、大学に入ってジョンジュンが作った音楽を聴かされて、「(その音楽の)ベース弾いてみる?」と訊かれて始めたんです。その時の音楽がカッコよくて。一度一緒に作業した後にバンドに誘われました。「君がやりたい音楽なんでもやっていいよ」と言われたのが新鮮で、面白そうだと思いここまでやってきました。今でも一緒に作業して面白いですし、仲が良いです。
イ・スンミン(以下、SM):僕もヒョンソプと立場は一緒ですが、僕の場合はバンド等での活動を何もやってなかったんですよ(笑)。それでも「音楽やってみようぜ」と提案されて、始めたばかりの頃はあまり音楽を愛する気持ちは強くなかったかもしれないけど、off the menuをやっていくことでもっと音楽を愛せるようになりました。自分の音楽的能力も成長できる良いきっかけにもなっているし、今でも楽しくやっています。
──仲の良いメンバーたちですが、制作の際はチームとして何を意識していますか?
HS:まずジョンジュンが土台の部分を作って持ってくることが多いです。そこにお互いにアイディアを投げ合い、インスピレーションを分かち合って作業していく感じです。
JJ:僕らのチームではMIDIが重要だと思って、その部分はスンミンがよく担ってくれています。ヒョンソプは感覚が鋭く、「これは良い」「これはダサいぞ」「こっちはどうだ?」とアイディアを次々と出していくスタイルなので、その意見に応じて作業していきます。
HS:でもoff the menuという船の船長はジョンジュンだと思います。
JJ:やめろよそういうの(笑)。あと、「メロディーを先に書くか、それとも歌詞を?」などといったプロセスをよく訊かれるのですが、僕らにはそういう決まりはありませんね。メロディーを先に書く場合もあれば、楽器の編曲を先に行う時もあったり様々です。
──ライヴにも頻繁に出演していますが、off the menuがライヴで意識していることはありますか?
HS:元々は音源の具現化について考えてたんですが、最近だとライヴだけで感じ取れるものはなんなのか、ずっと悩んでいて。音源をそのまま演奏するより、そのライヴに向けてもう一度編曲を加え、オーディエンスの立場からより親しめる形に落とし込もうと考えています。
──off the menuの音楽は、ジャンル的にはドリーム・ポップからR&B、シンセポップ、ロックまで多種多様ですが、同時にドリーミーなメロディーやトーンが割と一定に維持されている印象を受けます。サウンド・メイキングにおいて念頭に置いていることがあれば教えてください。
JJ:正直なところ、僕はヴォーカルで高音をそこまで出さないスタイルなんですよ。それもあって音域に似合う音響を考えると尖った音がそんなに多くはない。だからドリーミーや夢幻的に感じられるのはそういう要素も多く作用しているはずです。そこを変えるとまた違った印象の音楽になるかもしれません。例えば最近はK-POPアイドル音楽の作曲にも手がけているのですが、その時にはまた全然違うスタイルの楽曲が産まれるんです。
──逆にK-POPなどの外部での仕事ではどんなスタイルになることが多いですか?
JJ:それはK-POP作曲家の誰に訊いてもたぶん同じ答えになると思うのですが、特定のジャンルに限らないんです。本当に様々なジャンルを駆使しなければいけない。
──つまり、クライアントが求める通りだと。
JJ:そういうことです。
──ここからは作品の話に移りたいと思います。EP『Contact』(2020年)とアルバム『Every Point of View』(2023年)について紹介していただけますか?
SM:まず『Contact』は僕にとってはじまりを知らせる作品でした。そして『Every Point of View』は、正直に言うと、僕にとって悲しい作品なんです。それが発売された時、国家に呼び出されて、18ヶ月間遠いところにいたので……(※軍隊義務服務のことを示す)。
──あっ…。
SM:聴きながら「ああ、どこかでメンバーたちが頑張っているんだなぁ」と感じて、心の中で熱い涙を流した、そんなアルバムです。
JJ:僕にとって、まず『Contact』はすごく“雑”に作った作品だと思います。音響や音楽理論などの知識が少なかった時期の、いわゆるティーンエイジャーの作品というか。それはそれでロマンがあります。『Every Point of View』の場合は、すごく悩みながら作りました。悩み過ぎて発売日すら遅れましたね。20曲ほどボツにしたりして、ビビりながら出したアルバムです。その代わり音楽的な能力値はだいぶ上がった状態で取り組んだとは言えます。
HS:僕は各作品が僕らを表現していると思います。『Contact』はヒーターと扇風機が一緒にあるなど四季を表現したカヴァー・アートからもわかるように、どんな季節にも合わせて選んで食べられるように作られています。『Every Point of View』も“各自の視線”というタイトルの通り多様さを表現していて、チームを代表できる表現をした作品と言えるでしょう。
──では各作品においてテーマやコンセプト的な面はそこまで強くはないと。
JJ:今新しく作っているアルバムはまた違うのですが、以前はその都度僕らがやりたい音楽にフォーカスしていて。例えば『Contact』の場合はやわらかい作品だと思います。先ほど言われた、いわゆるドリーミーなサウンドはこちらの方でよく使っていますね。そして『Every Point of View』になると、ギターやシンセなども扱い方が上達したのもあってだんだんと荒いサウンドも加わり、それをやわらかさとうまくブレンドしようと頑張った感じです。
──みなさんはあらゆる種類の音楽を聴くそうですね。チームに影響を与えた音楽や好きな音楽作品/アーティストなどを教えてください。
HS:僕はジョージ(Joji)、フランク・オーシャン、レイ・ブラウンが好きですね。主に暗い感じの。
SM:僕は音楽を広く聴こうと努力していて。フォーク・ロックにハマってダミアン・ライスが好きになったり、K-POPにハマってaespaを聴いたり、シンセポップにハマってLANYやThe 1975を聴いたり、最近はUKの電子音楽にハマったりしています。で、その方面でおすすめすると、サルート(salute)というDJ/プロデューサーがすごく良いと思います。あと、最近はショート動画用の音楽がすごく流行っているので、それもディグッたりしています。
JJ:僕の場合は4ビートみたいにストレートな音楽や電子音楽などが好きで、パリ五輪の閉幕式にも出たKavinskyというフランスのプロデューサーだったり、BLACKPINKのジェニーともコラボしたマット・チャンピオン、エイフェックス・ツインがピアノを弾く『Drukqs』(2001年)などですね。昔は坂本龍一の音楽を最も聴き込んでました。
──作業やライヴでどんな楽器やソフトを使われますか?
JJ:スンミン、楽器自慢しな(笑)。
SM:まずDAWはLogicです。シンセサイザーもたくさん使い分けています。ある時はSerumという仮想楽器(ソフトシンセプラグイン)を使ったり、ある時にはアナログ・シンセサイザーを復刻したプログラムを使ったり。最近は元々作られたループをサンプリングする方式も用いてますね。ライヴではNovation社のSummitとArturia社のMiniFreakというシンセサイザーを使っています。
JJ:僕の場合もLogicで作業していて。キーボードはUDO Audio社のSuper 6とNord社のNord Electroの2つを使ってます。初期はOberheim社のOB-6などアナログシンセも使いましたが、今の僕らはデジタル基盤のシンセをよく使っていて、アナログよりはハイブリッド寄りのものですね。日本に行ってMinimoog Model Dがあったら買おうと思ってます。
HS:ベースはFender社のCarbonitaを使っていて。テレキャスターの形なのもあって気に入っています。シンセサイザーはMoog社のSub Phattyを使っていますが、Behringer社のPOLY Dも気になって調べています。
──先ほどサンプリングについて触れましたが、既存の楽曲からサンプリングしていますか? それともSpliceやTracklibなどでループを買う方式ですか?
SM:ループを買う方です。
JJ:既存の楽曲からだとクリアランスの問題もありますからね。著作権が切れた昔の映画やクラシックなどから切り取ってサウンドを変えて使う場合はあります。
──歌詞は英語を使っていることが多いですよね。その理由を含めて、作詞のこだわりを教えてください(追記:ジョンジュンはアメリカ居住経験がある)。
JJ:英語を使う理由の一つは世界で最も使われている言語だからです。どこに行っても英語の歌詞は意味が伝わりやすいですからね。あと発音の問題もあって、韓国語は発音が少し強めで、サウンド的に英語の滑らかさが似合う部分が多いという点もあります。でも韓国語が似合いそうな曲もあるので、その場合は韓国語を使っています。
──off the menuから見た韓国のインディー・シーンについて紹介してもらえますか?
JJ:個人的にサウンドの傾向だけで見ると、ギター・バンドが多い気がします。(off the menuのように)シンセサイザーをメインに使うチームは比較的少ないですね。ヴィンテージなギター・サウンドやそこから派生した音楽が主になっているシーンに感じます。ソウルのインディー・シーンを見れば以前より活発になっていっている感じで、韓国に「バンド・ブームは来る…!」というネットミームがあるように、フェスなどにもバンドが徐々に多くなったりしています。
──実際にバンド・ブームは来ていますか?
JJ:よくわからないですね(笑)。バズるチームはバズって、ダメなチームはダメ。自由市場経済のような感じです。
──今回の日本でのライヴを通じて日本のリスナーたちに伝わってほしい感情やメッセージなどはありますか?
JJ:僕の音楽人生のモットーは「手軽に聴いてほしい」ということなんですね。ふとした瞬間にパッと思い浮かぶ音楽というか、気分が良い時はこの曲、悪い時はあの曲という形でも、喜んだり悲しんだり頑張れたりする曲という形でも、そのすべてを僕らの音楽から見つけてもらえたらいいな。ライヴで浮かんだ感情を自分の感情に繋げていただけたら嬉しい。
HS:現場で感じる感情に率直になっていただけたらと思います。楽しんでください。
SM:韓国料理に「キムパプ(韓国式海苔巻き)」があるじゃないですか。その一種にモデゥムキムパプというメニューがあって、そこにはチーズ、ツナ、ビーフなどいろんな種類が詰まっているんですよ。僕らのライヴからも嬉しい時は喜んだり、悲しい時は悲しんだりして、そういった多彩な感情を共有したいです。ちなみになぜキムパプかというと、昨日の夕飯だったからです(笑)。
──off the menuの曲でおすすめや気に入っているものを教えてください。
HS:「Lie with me」を気に入っています。僕らの父親に向けてジョンジュンと一緒に作詞した曲なんですが、父親と交わした会話について率直な気持ちを詳しく表現できていて愛着があります。
JJ:僕は「Silhouette」という曲で、はじめはあまり好きではなかったんですけど、聴いているうちに意外と良いと思うようになって。現在僕らにはレーベルがなく、曲を書いた時には両親に必ず確認してもらうようにしているんです。音楽の専門家に送ると難しい曲がより好きだったりする場合が多いけど、両親の意見は“ガチ”なんですよ。ダサいのはダサいとバッサリ言うスタイルで。「Silhouette」の場合も最初母親に送った時は「おかしい」と言われたのに、完成時にもう一度母が聴いて「思ったより良い、聴く度に良くなるみたい」と言われて、自分が考えていた感情の変化と一致していて不思議だった曲です。
SM:時期によって違うんですが、最近は「Echoes」を愛聴しています。僕が大韓民国を守りに18ヶ月間どこかに行っていた時は携帯が持てないじゃないですか。だから、MP3プレイヤーを使用していたんですけど、そこに入っていた唯一のoff the menuの音楽が「Echoes」だったんです。『Every Point of View』はメンバーたちに誇らしさを感じるアルバムで、中でも「Echoes」が僕の趣味に合う曲ですね。ジョンジュンの歌詞が綺麗です。
──off the menuとして今後の計画がありましたら教えてください。
JJ:新しいアルバムを作っているのですが、電子音楽風になりそうです。でもアコースティックな楽器を加えたり、自然の音、アンビエントを盛り込んだり、UKガラージ、ドラムンベース、アマピアノなどいろんなジャンルに挑戦しています。
HS:Tシャツもツアーに向けて作っていますし、またLPの制作がほぼ完了して韓国に配送中なので、ライヴの時には商品を実物で確認できるはずです。
──では最後に伝えておきたいことはありますか?
JJ:僕らは「バンド」と呼ばれるのですが、そう言われるとギターが入っていたりする一定のフォームが浮かぶ偏見が生じると思うんです。それが僕らはあまり好きじゃなくて、いろんな音楽ができるチームとして見ていただけると嬉しいです。
HS:日本公演、たくさん遊びに来てください!
SM:一緒にメニューから消え去りましょう(笑)。
<了>
Text By Shoho Bannou
『off the menu tour 2024 in Tokyo』
2024/10/2(水)
at Spotify O-nest
開場19:00 開演19:30
(LIVE)
off the menu
HALLEY
チケットは以下から
https://t.livepocket.jp/e/offthemenu_1002
『off the menu tour 2024 in Tokyo – AFTERPARTY』
2024/10/3(木)
at WPÜ CAFE&DINER SHINJUKU(1F)
18:00-22:00
(LIVE)
payperview-Jung Jun Ahn, Seungmin Lee(from off the menu), Junyoung Choi(from 87dance)
beipana
(DJ)
nanase
1skr